イノベーションの源泉は「人材」にあり
企業の成長エンジンとなる「未踏」とは
「未踏」という名の国家プロジェクトをご存じだろうか。正式名称は「未踏IT人材発掘・育成事業」。文字通り、前人未踏の分野を切り拓く“若い突出したIT人材”の発掘・育成を目指したものだ。既に1500人もの“卒業生”を輩出し、業界をリードする企業で活躍する者も少なくない。学生だけでなく、社会人からの応募でアイデアを形にすることもある。企業が競争力を高め、持続的成長を目指すにはイノベーションが不可欠。その源泉は「人材」にほかならない。
「海外発」に頼らざるを得ない状況

活発な経済・産業活動、快適で安全な社会生活を営む上で、ITは不可欠の存在だ。IT抜きに現代生活は語れないといっても過言ではないだろう。すそ野は広く、交通や金融、エネルギーなどの社会インフラから、身近なところでは自動車や家電製品などにもITが浸透し、重要な役割を担っている。もちろん、ビジネスの世界も例外ではない。
一方で、今国内企業が置かれた状況は非常に厳しい。日本を覆う深刻なデフレ、少子高齢化による市場の縮小、活路を見出すためのグローバル展開には熾烈な競争が待ち受ける。こうした難局を打破し持続的な成長を遂げるには、ITを駆使したビジネスのイノベーションが必要である。では、どうやってイノベーションを創出すればよいのだろうか。
まずは身近なITを振り返ってほしい。iPhone、iPad、Android端末などのスマートデバイス、検索エンジンのYahoo!やGoogle、ソーシャルメディアのTwitter、Facebook、動画共有のYouTube、ビジネスの基盤となるMicrosoft OfficeやWindow——。これらは、すべて海外発の技術や製品だ。生活やビジネスを、“輸入品”に頼っているのが実情なのである。
イノベーションをリードする人材が欠かせない
そもそも資源に乏しい日本は、将来の目論見として「IT立国」を志向してきた。ソフトウエアをはじめとするIT製品やサービスを企画・開発し、世界に提供するという構想だ。だが、現実は逆の事態になっている。これがイノベーションを渇望しつつ、なかなかイノベーションを生み出せないというジレンマにつながっている。原因は何か。源流をさかのぼり、最終的に直面するのが「人材」の問題である。
今一度、世界を席巻するIT製品やサービスに目を転じてほしい。それらの多くは独創性を備えた“若い突出したIT人材”の手によって成し遂げられたものである。iPhoneを生み出した米アップルの故スティーブ・ジョブズ、米マイクロソフトを創ったビル・ゲイツ、最近ではFacebookのマーク・ザッカーバーグなど。しかし、日本にはそうした“若い突出したIT人材”が圧倒的に不足している。
もちろん、組織力と団結力で大きなことを成し遂げる日本なりの強みはある。だが、時代をリードするイノベーションを創出するには、既成の殻を突き破る天才的な素養を持ったIT人材が必須なのだ。「ソフトウエア産業は、実は少数の天才たちによって動く」と言われる所以である。
だからこそ、日本にも才能ある人材を発掘し、意欲や能力を最大限に引き出す仕組みが必要だ。そうしなければ、企業の国際競争力の低下を招き、ひいては国力に悪影響をおよぼしかねない。
日本版マーク・ザッカーバーグの輩出を目指す
こうした危機感から経済産業省(当時は通商産業省)は、2000年に国家プロジェクト「未踏ソフトウェア創造事業」を開始した。現在の「未踏IT人材発掘・育成事業」(以下、未踏プロジェクト)である。
未踏プロジェクトとは、文字通り、前人未踏の分野を切り拓く“若い突出したIT人材”を発掘・育成する国家プロジェクト。いわば日本発のビル・ゲイツやマーク・ザッカーバーグを生み出そうという試みだ。原石を掘り起こし、磨きをかけ、世界に伍するイノベーションの創出を促す狙いがある。
斬新な発想に基づくプロジェクトだけに、その運営手法も独自のものだ。未踏プロジェクトにおいて、国はサポートや資金提供に徹し、成果物は人材自身に帰属する。原則として資金の使途にも口出しはしない。国が得る成果物は、「人あるいは人が創り出した製品、サービス、あるいは会社が生み出す雇用や税収」という発想に基づいている。
未踏プロジェクトに応募し採択された人材に対しては、プロジェクトマネージャー(PM)を配し指導に当たる。PM陣は産学界の第一線で活躍する有識者たちで構成される。大きな可能性を秘めた人材を指導し、アイデアのブラッシュアップをサポート。そこから、まだ見ぬ斬新なIT技術の実用化や製品・サービスの事業化への道筋をつける。
12年間の継続で1500人超の実績を誇る
既にプロジェクトは12年以上継続しており、“卒業生”は2011年度の段階で合計1500人を超える。EC(電子商取引)サイトを運営するネット企業や、外資系のIT企業などで多くの人材が活躍している。日本の産学界だけにとどまらず、世界から注目を集めている。
プロジェクトに採択され、磨きをかけた“卒業生”は即戦力となる有能な人材である。公募に当たって自らの考えを述べ、採択されてからは同期生やPMとディスカッションする機会も多いため、コミュニケーションスキルも高い。その人材はイノベーションの創出に貢献するはずだ。
また、未踏プロジェクトは対象が25歳未満のため、学生だけでなく、若手社会人の応募も可能だ。社内の有能な人材に応募を促し採択されれば、イノベーションの“内製化”に道筋をつけられる。自社の利益に直結するソリューションやビジネスモデルを創出し、国際競争力を高められる。
“若い突出したIT人材”を発掘・育成し、世界に通用する技術・製品の開発を促す未踏プロジェクト。輩出される未踏人材を採用すれば、企業競争力を高める強力な“武器”になる。プロジェクトに採択されれば、アイデアは形になる。イノベーションの創出を目指す企業は、未踏プロジェクトの可能性に目を向けてはいかがだろうか。
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