産業界の取り組み(日本経団連の取り組みの紹介)

日本経団連による高度IT人材育成への取り組み

日本経団連では、2005年6月に、大学におけるIT教育の強化に向けた提言として、「産官学連携による高度なIT人材の育成強化に向けて」1を 発表した。この提言では、IT利活用の推進が焦点となる昨今において、ITを活用し、高い付加価値を創造できる高度情報通信人材育成が重要であることを指 摘した上で、わが国の中核技術として産業全体の競争力の源となっているソフトウェア(組込みソフトウェアを含む)の開発・利用に携わる人材の質・量の不足 が深刻化していることを訴えている。日本経団連の試算では、産業界には、毎年、新卒人材としてトップレベルの高度情報通信人材が1,500人程度、将来的 には3,000人程度必要であるとされ、そのために、日本経団連は、世界的水準の高度なIT専門教育を行う先進的実践教育拠点を10拠点程度整備していく ことが必要であると提言した。この提言の背景には、米国等のIT先進国において高度な実践的なIT教育が実現されている事実に加えて、中国、韓国、インド 等において、高度IT人材育成が国策として取り組まれ、世界的なIT人材供給基地として発展しているのに対し、わが国の大学におけるIT教育は、学術的な 教育研究に偏重する傾向が強く、企業内の実践教育・業務に耐えうる高度なIT専門知識・スキルを備えた人材を輩出できていないという産業界の危機意識があ る。
2006年2月には、日本経団連の「情報通信部会」の下に、国内主要ITベンダー、ユーザー企業、業界団体等から構成される「高度情報通信人材育成部会」が設置され、産学による高度IT人材育成のための取り組みが着手された。

日本経団連は、高度IT人材育成のための協力大学を広く募集し、2006年4月には、筑波大学、九州大学の2校を重点協力校、静岡大学、信州大学、東海大 学、東洋大学、立命館大学、埼玉大学、群馬大学、茨城大学、宇都宮大学、琉球大学が協力校として認定され、産学連携による高度IT人材の育成のための取り 組みが本格化した。これらの取り組みは、2006年1月に、政府IT戦略会議により発表された「IT新改革戦略」における高度IT人材育成戦略やその具体 的施策として、2006年度から文部科学省が予算化した「先導的ITスペシャリスト人材育成推進プログラム」と呼応するものとなっている。日本経団連で は、「先導的ITスペシャリスト人材育成推進プログラム」に採択された筑波大学グループ(筑波大学、電気通信大学、東京理科大学)、九州大学グループ(九 州大学、九州工業大学、熊本大学、宮崎大学)などを中心に、第一線技術者の講師派遣、カリキュラム、教材の共同開発などを行い、各大学は、高度IT人材育 成のモデル拠点整備を進めている(次表には、重点協力校、協力校に対する取り組みを示した)。現在では、「高度情報通信人材育成部会」には、拠点設置・展 開に関する支援方針を策定する戦略・企画チーム、拠点に対する企業の具体的支援・協力内容のとりまとめと支援を実施する拠点支援プロジェクトチーム(下部 組織として評価チーム、共有PFチーム、筑波大学支援チーム、九州大学支援チームから構成)が設けられ、筑波大学、九州大学の重点協力校を産学による実践 IT教育のモデル拠点として継続支援が進められている。
また、経済産業省が平成18年度に実施した「産学協同実践的IT教育訓練基盤強化事業」においても協力校の5校が採択され、政府による実践的IT教育の促 進施策との連携が図られている。その他、日本経団連では、産官学がIT人材育成を強力に推進している中国、韓国等のアジア諸国や、アイルランド、ノル ウェー等の欧州諸国の高等教育機関におけるIT人材育成に関する調査を行い、わが国における実践的IT教育訓練のあり方についても継続的な検討を行っている。

1 「産学官連携による高度な情報通信人材の育成強化に向けて」2005年6月21日、(社)日本経済団体連合会 (http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2005/039/honbun.pdf

日本経団連による高度情報通信人材育成強化に向けた取り組み
(日本経団連による講演資料をもとに作成)
対象大学 取り組み概要
重点協力校
(高度IT人材育成のためのモデル拠点)
筑波大学、九州大学
・ 大学ごとに支援チームを結成
・ プログラムの運営体制および具体的なカリキュラム内容について産学協同で策定(企業ニーズと大学教育のギャップ解消のため、育成目標とする人材像から、必要となるカリキュラムを大学・企業が協力して考案)
・ 大学では対応が困難な10科目程度を企業側が担当
・ 派遣教員による学生へのメンター
・ 企業の一線で活躍している産業界講師の派遣、常任講師を各重点協力校に複数名派遣(各大学に常勤2名、非常勤講師のべ100名)
・ PBL等の実践系科目や最新トレンドなどに関する教材を産業界講師とセットで提供
・ 奨学金制度(最大月額20万円)の創設
・ 協力企業の優先採用
・ プログラム運営の意思決定機関への参加
・ インターンシップ(1~2ヶ月)約50名の受入れ 等
協力校
立命館大学、東海大学、静岡大学、信州大学、新都心共同大学院(宇都宮大学、埼玉大学、茨城大学、群馬大学による共同大学院)東洋大学、琉球大学
・ 協力内容を決定するための特別チームを結成
・ 個別の要望に応じて、産業界側の協力・支援を実施
・ 重点協力校に対する協力内容の検討を踏まえ、連携プログラムを拡充・展開

 

C513-5-1

日本経団連による拠点大学院のイメージ
(日本経団連による講演資料をもとに作成)

 

日本経団連では、重点協力拠点に対する集中的な産業界の協力を進めることに加え、わが国が必要とする高度IT(日本経団連では、国際的にはICT の方が一般的に使われているとしてICT人材と呼んでいるが、ここではIT人材で統一する。)人材を量的に確保するためには、この取り組みを全国の大学に 普及拡大し、更に加速するための新たな体制を産学官で構築する必要があるとして、これまでの産学官の取り組みを次なる段階へと展開することで、わが国の高 度IT人材育成の全体最適化するための具体的方策を盛り込んだ「高度情報通信人材育成の加速化に向けて-ナショナルセンター構想の提案-」を2007年 12月に提言した。この動きの背景には、これまで一部の企業、大学関係者で共有されるIT人材教育・育成に関する危機意識のもと継続されてきた一連の動き をより安定的で継続的なものとし、わが国におけるIT人材教育体制をより強固かつ持続的な体制へと発展させていこうとする狙いがある。
「ナショナルセンター」は、実践的IT教育の共有プラットフォームの実現を担う中核的な機関と位置付けられ、産業界からの実践的IT教育に対する支援リ ソースの有効活用や主要大学での実践的IT教育体制を整備し、わが国における高度IT人材の自律的供給メカニズムを確立していくことを目的としている。経 団連の提言では、実践的IT教育の共有プラットフォームが具備すべき機能として、実践的IT教育に関する研究、実践IT教育の提供、モデルカリキュラムの 策定と推奨、全国の大学と支援企業のコーディネーション・ハブ、教育アセットマネジメント、コミュニティの形成、ファカルティ・ディベロップメント (FD)等が提案されている。その中で、実践IT教育の提供に関しては、「ナショナルセンター」に融合型専門職大学院を附設し、実践的IT教育に関する研 究の成果や、センターが策定したモデルカリキュラム、提供するFDを実践し、検証する場を設けるとしている。また、この専門職大学院は、単に高度なITの 教育を行うのではなく、ITを武器として社会に貢献する人材を育てるため、他分野(他大学院が提供するものも含む)を同時に専攻できる融合型大学院とする 他、先進的な高度IT人材育成の最適モデルを目指し、企業や全国の大学から優秀な教員を選抜し、3学期制や4学期制などの短いタームでの教育、履修単位数 の大幅増、中長期インターンシップの必須単位化、修士論文に代わる修士開発(論文ではなく、開発プロジェクト等により修士号を付与)の導入、企業の特別採 用枠など、既存の大学の枠組みを超えた教育課程を創設すること等を提言している。また、専門職大学院の設立・運営については、ドイツのポツダム国立大学内 に附設されたハッソ・プラットナー・インスティテュート(HPI)の例を参考に、「ナショナルセンター」及び既存の大学の附設教育機関として設置すること や、柔軟な組織運営を担保するため、独自の権限責任規定や人事制度を明文化し、トップダウンによる意思決定や前例に捉われない制度変更などを可能とするべ きなど、“理想的”な実践的IT教育を実現するための方策を提言している。

日本経団連による一連の産学連携による実践IT教育の取り組みは、産業界リソース(一線の技術者や教材・機材等)を拠点に集中投入するとともに、産業界が 主導する形で産業人材教育機関を大学に設置していくという既存の枠組みを越えた取り組みである。このような革新的な取り組みがわが国の高度IT人材基盤の 礎となることが期待されている。

C513-5-2

日本経団連が提案するナショナルセンターのイメージ
(日本経団連公表資料をもとに作成)