産学協同実践的プロジェクトマネジメント教育の導入(概要)

産学協同実践的プロジェクトマネジメント教育の導入(概要)

この事例は、特色事例を紹介した:注目事例でも取り上げられています。

事業実施体制

実施代表機関 (株) 古河ソフトウェアセンター
提案代表者名 児玉隆次((株)古河ソフトウェアセンター 技術開発部 部長)
教育訓練システム導入・展開責任者 上田賀一(茨城大学 工学部 情報工学科 助教授)
加藤和彦(筑波大学 第三学群 情報学類 助教授)

※機関名・役職等は当時(平成16年度:事業採択時)のもの

 

連携機関

機関名役割
茨城県商工労働部産業技術課 実施委員会での助言、広報、他校展開
茨城大学工学部情報工学科 教育実施場所、教育カリキュラム検討、教育訓練システム評価、大学への本格導入のためのシラバス等の検討
筑波大学第三学群情報学類 教育実施場所、教育カリキュラム検討、教育訓練システム評価、大学への本格導入のためのシラバス等の検討
(株)日立製作所(茨城支店) ニーズ調査、スキル評価、講師(現場熟達技術者)選定派遣、実施委員会での助言
茨城県情報サービス産業協会 ニーズ調査、スキル評価、講師(現場熟達技術者)選定派遣、実施委員会での助言

 

背景と目的

茨城県の産業界では、会社の売上や利益に大きな影響を与えるシステムを提案できるコンサルタント、ITアーキテクト、および、開発メンバーにリーダーシップを発揮してシステム開発を成功に導くプロジェクトマネジメントなどの、ITスキル標準のレベル4以上の上級技術者が不足しており、上級技術者に対するニーズが非常に高い。
こうした状況の中、茨城県内の国立大学(筑波大学、茨城大学)では、実務能力が高く、即戦力技術者を育てるためには、産学が協同して学生を育てる必要性があると認識しているが、講師に対する学位(工学博士)保有の条件等の制約により、現場熟達技術者を招聘して講義を実施するのは困難であるのが現状である。また、高度な技術教育を実施している場合でも、プロジェクトの下流工程での基礎技術に偏る傾向があり、上級技術者に必要なシステム提案力、プロジェクトマネジメント能力等の実践的な教育が不足している。
一方、産業界においても、大学側と共通の尺度(ITスキル標準)のもと、求める人材ニーズについて、産学に十分な説明を行っていない。これにより、産業界のニーズを意識したカリキュラムが実現されていない。
本事業では、上記のような背景・課題を踏まえて、県内のIT企業と県内国立大学(茨城大学、筑波大学)との産学協同体制により、IT企業の現場熟達技術者によるプロジェクトマネジメント教育を県内国立大学に導入し、ITスキル標準で定義されているプロジェクトマネジメントのレベル4以上の上級技術者となるための「基礎力」「応用力」を身につけさせる教育訓練の設計・開発を行った。また、その教育訓練を実施し、受講者へのヒアリング、アンケート等により、教育訓練の有効性を実証した。

 

産学協同による教育訓練の意義

本事業では、高度な技術教育を実施している茨城県内の国立大学(茨城大学・筑波大学)と、県内のIT企業との連携体制により、IT企業の現場熟達技術者による、大学だけでの教育では難しい実践的なプロジェクトマネジメントの上流工程の教育を大学に導入した。これによって、産業界でニーズの高い、リーダーシップを持ち、システム開発を成功に導くことができる上級技術者を育成するための教育訓練が実現された。

 

教育訓練の概要

教育訓練内容・方式

本教育訓練は、産業界の人材ニーズ調査から、産業界が求める人材や、大学に求める教育等を明確にした上で、設計・開発された。この教育訓練は、以下の「現場熟達技術者による討論会」、「基礎教育」、「ケース研修」、「現場体験」から構成される。また、教育訓練では、グループ単位で、ケーススタディを中心とした教育訓練を実施し、その有効性についての評価を行った。

現場熟達技術者による討論会

現場熟達技術者が講師となり、実際に自分が携わった業務やプロジェクトマネジャーの役割等を紹介した後で、学生とグループ討議を行い、予算管理やコミュニケーション能力の重要性等を気づかせた。

基礎教育

現場熟達技術者が講師となり、プロジェクトマネジャーの基本である、プロジェクト計画、プロジェクト実行管理、プロジェクト評価、システム構成管理、ソフトウェア品質保証、システム評価を学んだ。

ケース研修

グループワークにより、先進のWebアプリケーションシステムを想定したシステム開発プロジェクトを計画し、ケーススタディ方式で、その実行管理を実習した。

現場体験

学生が実際に企業に赴き、プロジェクト会議等に参画した。

有効性評価

講座前と講座後に、プロジェクトマネジメントの評価指標(スコープ計画・管理力スケジュール作成・管理力、資源計画、管理力、品質計画・管理力、組織計画・管理力リスク計画・管理力、調達計画・管理力、リーダシップ・コミュニケーション力等)による効果測定を実施し、教育訓練の有効性を評価した。また、受講生に対して、アンケート調査およびヒアリングを実施し、講座内容に対する意見・感想を収集し、その効果を評価した。

受講者

本事業における両大学の受講者を下表に示す。

茨城大学 受講者情報詳細
コース名受講者特性等人数
現場熟達技術者による
プロジェクト事例紹介
(11月16日)
茨城大学工学部情報工学科 学生(主に3年生)
午前:「ソフトウェア工学」受講生
午後:「システム開発論」受講生
午前:25名
午後:42名
現場熟達技術者による
プロジェクトマネジメント
基礎(11月30日)
茨城大学工学部情報工学科 学生(主に3年生)
午前:「ソフトウェア工学」受講生
午後:「システム開発論」受講生
午前:29名
午後:44名
プロジェクト計画
ケース研修
(12月14日)
茨城大学工学部情報工学科 学生(主に3年生)及び
大学院生(各チームリーダーとして参加)
午前:「ソフトウェア工学」受講生
午後:「システム開発論」受講生
午前:24名
午後:38名
現場訓練
(1月26日)
上記講座を受講し、現場研修に参加希望者 7名

 

筑波大学 受講者情報詳細
コース名受講者特性等人数
現場熟達技術者による
プロジェクト事例紹介
(1月13日)
筑波大学第三学群情報学類 学部生(主に2年生)
「ソフトウェア構成論」受講生
92名
現場熟達技術者による
プロジェクトマネジメント
基礎(1月20日)
筑波大学第三学群情報学類 学部生(主に2年生)
「ソフトウェア構成論」受講生
87名
プロジェクト計画
ケース研修
(1月27日)
筑波大学第三学群情報学類 学部生(主に2年生)
「ソフトウェア構成論」受講生
78名
現場訓練
(2月2日)
上記講座を受講し、現場研修に参加希望者 16名

 

教材・インストラクタ・環境

教育訓練では、現場熟達技術者が、自らの業務経験を元に開発した教材や、情報処理推進機構(IPA)による「システム開発管理・評価」の教材を活用した。また、IPAが開発したITスキル標準対応のeラーニング教材も活用した。
インストラクタは、プロジェクトマネジメント経験やシステムコンサルティング等の上流工程に関する経験・実績など、産業界においてITスキル標準のレベル4以上の業務経験を有する現場熟達技術者を、IT企業および茨城県情報サービス産業協会から募集した。

 

事業実施年度(平成16年度)における成果

学生に、「気づき」の講義でのプロジェクトの失敗事例紹介や、基礎講座でのプロジェクトの具体例を教えていくうちに、企業の日常業務がプロジェクト運営そのものであるという事実や、プロジェクト運営の難しさや重要性について、徐々に「気づき」の心が生まれ、学生の中に、プロジェクトマネジメントに対する興味が沸いて、就職後の上級技術者像に関する学生のイメージが形成されていった。「ケース研修」では、PMグループが、幹部グループとの間で、プロジェクト計画について白熱した議論を展開し、学生のプロジェクトマネジメントへの興味やモチベーションが喚起された。
アンケートでも、学生から、「面白かった」「こんな講義は初めてだ」「機会があればまたぜひやりたい」という声が多く寄せられた。このように、時間的な制約はあったものの、本教育訓練事業は、茨城大学・筑波大学の双方で、予想以上の成果が得ることができた。

 

事業の継続状況

平成17年度の「産学協同実践的IT教育基盤強化事業」において、同事業と同じく(株)古河ソフトウェアセンター(現:(株)いばらきIT人材開発センター)を実施代表機関とするITサービス分野の学生向け教育訓練プログラム「J2EEシステム開発で学ぶプロジェクト実行管理」事業が、採択・実施された。平成17年度は、この事業の枠組みの中で、筑波大学・茨城大学の両大学において、J2EEによるソフトウェア開発演習とプロジェクトマネジメントの実践に重点を置いた教育訓練が実施された。
平成18年度以降の各大学の取り組みは、以下のとおりである。

①筑波大学
平成18年度には、文部科学省の「『魅力ある大学院教育』イニシアティブ教育プログラム(i)」と「先導的ITスペシャリスト育成推進プログラム(ii)」の2つの公募事業に、筑波大学の提案が採択された。この採択にあたっては、経済産業省の産学連携事業を過去2年間(平成16年度・17年度)にわたって実施した実績が評価されたとみられる。上記i・iiの提案は、筑波大学が、産業界を牽引するトップIT技術者を育成するための本格的な取り組みとして位置づけられるものであり、経済産業省事業によって築いた実績が、これらの採択につながったことの意義は大きい。
経済産業省事業の成果は、重要な実績として、上記i・iiの採択につながったほか、直接的には、現在、上記i事業の修士課程の講座「実践型システム開発プロジェクト」で活用されている。この講座では、仕様書の作成から、見積もり・開発・納品・収益チェック(黒字/赤字)などを行い、実践的なシステム開発経験を積む。講師として、産業界から経済産業省事業で招いた講師と同じ講師を招き、教材も、これまでの教材に追加開発を加えたものを継続利用している。
また、間接的には、i事業で追加実施された「実践企画ケーススタディ」講座にも活用されている。この講座では、一般企業における情報システム調達を想定してRFPを作成する。学生側は、RFPを受けてシステム提案書を作成し、発注側企業へプレゼンテーションを実施する。講師は、上記の「実践型システム開発プロジェクト」とほぼ同様である。さらに、今回新規に作成された教材についても、受講者のレベルに合わせたものにするため、経済産業省事業のノウハウが活用されている。
平成19年度には、茨城県の情報化支援事業の予算も一部活用した上で、上記と同様の体制・内容にて、引き続き、実践的な教育訓練が実施されている。
筑波大学では、平成20年度以降も、上記事業を基盤として、修士課程・博士課程の学生を対象とした実践的な履修プログラムを開発・実施し、高い実践的スキルを修得した人材を、産業界に送り出すことを計画している。

②茨城大学
茨城大学では、本事業で実施した産学連携講座が、現在に至るまで自立的に継続実施されている。実施にあたっての体制は、平成17年度事業実施時と、ほぼ同様である。参画企業は、優秀な学生に対して、高度で実践的な教育訓練の実施により、産業界が必要とする人材の育成・輩出が可能となり、ひいては、地域産業界の中心的推進人材としての活躍が期待できるというインセンティブの下に参画している。
平成18年度は、平成17年度事業で実施したカリキュラムに、若干の手直し・改善を加えたものを利用した。講師についても、平成17年度と同じ講師を招聘している。なお、産業界からの現場熟達技術者を最少人数で実現するために、平成17年度の講座を受講した学生をTA(Teaching Assistant)として登用し、TAに対して、現場熟達技術者による事前教育を実施した上で、学生の指導を担当させている。
平成19年度は、茨城県情報化支援事業予算を活用して、引き続き同様の体制で、教育訓練を継続している。なお、大学単独での自立的な実施に向けては、学生の指導にあたるTAの育成が不可欠であるとの認識に基づき、産業界講師の協力のもと、TAの短期集中育成の実現に取り組んでいる。現場技術者は、大学側に最新の技術を伝える役割に徹し、大学側教員とTAによって、実践的な教育訓練が継続できるよう、産業界からのノウハウ移転に力を入れている。今年度は、TA自ら平成18年度に利用した学生向け教材を改変するなど、自立的な実施に向けた意識が高まっている。