携帯電話用アプリケーション開発技術の教育(概要)

携帯電話用アプリケーション開発技術の教育(概要)

この事例は、特色事例を紹介した:注目事例でも取り上げられています。

事業実施体制

実施代表機関 KDDI (株)
提案代表者名 伊藤 篤 (KDDI (株) 開発推進部 次長)
教育訓練プログラム
導入・展開責任者
渡辺 裕 (宇都宮大学 工学部 情報工学科 教授)
企業内人材育成等責任者 伊藤 篤 (KDDI(株) 開発推進部 次長)

※機関名・役職等は当時(平成17年度:事業採択時)のもの

 

連携機関

連携機関名 役割
特定非営利活動法人実務能力認定機構 評価・分析

 

背景と目的

携帯電話は、IT社会におけるコアデバイスとして重要な役割を果たしている。現在、携帯コンテンツの中心はエンターテイメントであるが、今後、携帯電話は、教育や健康管理など、より生活に密着した身近なサービスへのゲートウェイとしての役割を果たすようになると考えられる。しかし、このように、急速に携帯電話の利用範囲が拡大し、その需要が急増する現状に対して、職人的技術が要求される携帯電話用アプリケーション製作のためのスキルを持った技術者は非常に少ない。この背景には、携帯電話用アプリケーションの製作には、WEB的な画面表示と、イベントドリブンな状態遷移という2つの異なる要求を満たすようなプログラムが必要であるが、この両方に精通した技術者は少ないという事情がある。また、携帯電話用アプリケーションの製作では、携帯メーカーにより開発のプラットフォームが異なり、機種毎にコーディングと試験が必要とされるため、一人の技術者が多種多様なアプリケーションの開発に携わることは難しい。そのため、この分野における開発は、常に人手不足の状態に陥りやすい。
一方、大学において、携帯電話用アプリケーションのような、実装するまで動作を確認することができない、「埋め込み型」アプリケーションについての教育を行うことはきわめて困難である。また、携帯電話用アプリケーションの開発においては、機種毎のプラットフォームの違いを認識することも重要であるが、そのような教育を実施するノウハウは大学にはない。宇都宮大学では、企業のニーズに対応した人材の育成に主眼を置いた教育の実施を目指しているが、特に近年、多数の技術者が必要とされている、携帯電話、情報家電等への組込みソフトウェアの開発のための教育については、必ずしも充実した教育が実施できているとは言えないのが現状である。
そこで、本事業では、第一線の技術力を誇る国内有数の企業から、最先端の技術者を講師として招き、これまで大学では実施が困難であった組込みソフトウェア開発の一つのテストケースとして、携帯電話用アプリケーション開発についての教育を実施した。また、そこで得られたノウハウは、産学官共同の資産として維持発展させること目指した。具体的には、今回実施する教育訓練を大学学部のカリキュラムに反映させ、企業ニーズに即応した人材を産業界に送り込むことを計画した。さらに、次年度以降も、企業側の協力を仰ぎ、カリキュラムの充実を図りたい。

 

産学協同による教育訓練の意義

本事業は、これまで、大学単独では実施が困難であった実践的な教育訓練の、大学カリキュラムへの導入を目指したものである。この新しい教育訓練の導入によって、学生の就職先の増加や、学生による起業可能性の向上等が考えられる。また、この教育訓練は、将来的には、企業内技術者の再教育等にも活用され得るものであり、こうした意味から意義深いものであると考える。

 

教育訓練の概要

教育訓練の概要

(1)携帯電話アプリケーションの構造
(2)BREW概要
(3)BREWメモリ管理
(4)BREW通信機能
(5)BREW割り込み制御
(6)アプリケーション開発実習(3課題を設定し、プロジェクト・ベースト・ラーニング(PBL)型の実習を行う)

○ 課題1:対戦ボードゲーム
オセロなどのゲームを、ネットワークを介して2者で行うアプリを開発する。限られた時間を有効に活用するため、ゲームソフトは、講師が与え、主に、双方向通信機能を開発した。これにより、BREWによるデータ通信の方法を身に付けることを目指した。

○ 課題2:音楽配信
MP3/AACのファイルをダウンロードして再生するアプリを開発した。ダウンロード時、および再生時に認証を行わせ、これにより、データフォルダの操作と、マルチメディアコンテンツの取り扱い方を身に付けることを目指した。

○ 課題3:GPS応用
GPSから位置情報を獲得し、地図上に位置を表示するアプリを開発した。位置情報をサーバーにアップロードし、それを表示する機能を開発するとともに、大学周辺のフィールドでのテストを行い、有効性を確認した。これにより、位置情報の取得と、それを利用する技術を身に付けることを目指した。

教授方法

プロジェクト・ベースト・ラーニング(PBL)の手法を導入し、課題を与え、それを解決することでスキルを向上させることを目指した。

受講者

宇都宮大学大学院 情報工学科 博士課程前期1年生(27名)

教材・インストラクタ

テキストとしては、「BREWプログラミング実践バイブル」(インプレス)に加えて、講師作成資料(BREWアプリ開発実習説明書・BREW APIの解説)、BREW APIリファレンスマニュアルを用いた。
インストラクタは、KDDIに加えて、KDDIの協力先としてBREWアプリケーションを開発している協力企業から招聘し、BREWの専門家による指導を実施した。さらに、授業運営・管理のために、大学教員の他、TA、技術職員等を宇都宮大学から調達した。

教育効果の測定方法等

本教育訓練の効果は、以下の方法によって測定した。

(1)携帯アプリケーション開発に関するスキルの習得度について、学生からのフィードバックを収集
(2)作成したアプリケーションについて、KDDIがスキルレベルを評価
(3)実務能力認定機構に、他校のカリキュラムや資格試験などとの比較を依頼し、教育訓練そのものの有効性を評価

 

IT企業等にとっての本事業の意義と参画に対する意欲

弊社、ならびに、携帯電話業界では、携帯電話用アプリケーションの開発技術者へのニーズが高いため、大学からのこの分野の人材輩出に対して、大いに期待を寄せている。また、本事業に参画し、携帯電話用アプリケーションの教育手法を構築することで、他大学においても同様のカリキュラムが展開される可能性が広がり、この分野のスキルを有する学生が数多く輩出されることで、携帯関連産業界全体が活性化されると期待している。このため、積極的に社内技術やノウハウを開示し、インストラクタの派遣等の形で、教育に貢献したいと考えている。

 

事業実施年度(平成17年度)における成果

本事業により、先例のない携帯電話プログラミングの講座を成功させることができた。学生は、興味を持って授業に取り組むことができた上に、最後まで落伍者も無い状態で、無事講座を完了することができた。また、産学協同の問題点を、以下のよう明確化することができた。

コスト上の課題

開発環境(ソフト、試験環境など)の整備・運用にかかる費用については、本事業で貸与された環境を、企業の協力によって、今後も無償で継続利用することが可能であれば、ある程度は解決され、今後の授業の継続が可能となることが把握された。また、企業側の負担を軽減するための大学へのノウハウの移転が行われた。また、講師料に関する課題を解決するために、eラーニングシステムを構築した。

教育方法に関する課題

学生のスキルのバラツキに関する課題の解決策として、今回の教育訓練の中で、スキルの高い各グループのリーダー的な学生をTAとして任用が可能であることが判明した。

制度上の課題

カリキュラム上の問題、講義日程の制約、講師登用の条件等、フレキシブルな授業運用の導入の必要性、有効性を確認した。これらに関しては、制度の見直しを検討する必要がある。実ネットワーク使用の問題については、今後もKDDI(株)が協力する形で授業を継続する必要があり、セキュリティ対策などを明確にし、継続して協力を得られるようにしたい。

 

事業の継続状況

平成18年度は、平成17年度に講座を担当した産業界講師の指導のもとに、複数の学生が、卒業研究として、携帯電話アプリケーションの開発に取り組んだ。その際、平成17年度の本事業で教育訓練を受講した学生も、経験者としてサポートを行った。
宇都宮大学の教育訓練は、平成18年度の「産学協同実践的IT教育訓練基盤強化事業」にも採択された(「携帯電話用組込みアプリ開発技術の教育」)。平成17年度事業では、BREWを用いて、携帯電話アプリケーションの開発を行ったが、平成18年度事業では、プラットフォームの差異の吸収が可能なFlashを用いて、アプリケーションの開発を行った。平成18年度の事業では、テレビ会議システムを用いた遠隔授業の実施も試みられ、鹿児島大学の学生も数名、テレビ会議システム経由で教育訓練を受講した。
平成19年度には、教材の水準等、平成17年度事業において課題として認識されていた部分に改善を加えつつ、再びBREWを用いた教育訓練が実施された。平成19年度は、KDDI社の産業界講師が、客員教授として授業を担当している。
なお、過去の事業で実施された授業の様子は、すべて録画され、eラーニングコンテンツとして利用できるようになっている。
また、宇都宮大学では、茨城大学、群馬大学、埼玉大学とも連携して、平成19年4月に、新都心共同大学院を開校した。この大学院は、日本経済団体連合会の協力校に指定されており、産学による実践的な教育を、より一層本格化させるために、現在、カリキュラムの充実化が進められている。カリキュラムの策定にあたっては、宇都宮大学で実施された事業で得られた知見等も一部活用された。
新都心共同大学院では、基本的に講義は遠隔教育として実施されるため、平成18年度に試みられた、テレビ会議システムによる遠隔授業のノウハウも、活用されている。
平成17年度・平成18年度と続いて実施された事業の成果は、宇都宮大学において実践的な教育訓練の必要性が認識される機会となり、事業の実施を一つの契機として、多方面に、実践的な教育訓練が展開される運びとなった。