実践型グループ学生教育コースの開発及び実施評価(概要)

実践型グループ学生教育コースの開発及び実施評価(概要)

この事例は、特色事例を紹介した:注目事例でも取り上げられています。

事業実施体制

代表機関 公立はこだて未来大学
申請代表者名 鈴木恵二(公立はこだて未来大学 情報アーキテクチャ学科 助教授)

※機関名・役職等は当時(平成15年度:事業採択時)のもの

 

連携機関

機関名 役割
新日鉄ソリューションズ(株) 教材開発
(株)情報科学センター 教育訓練評価

 

背景と目的

高度IT技術者を養成していく上では、技術者が早期に、より高いレベルに到達することが望ましい。そのため、大学学部卒業時点で、学生がITスキル標準のエントリレベルに到達していることは、一つの理想形になるであろう。しかしながら、現在の大学における情報教育の体系では、このようなスキルレベルを身につけさせることが可能なところは極めて少ない。この原因は、対応するスキルレベルを身につけさせるだけの、カリキュラム上の時間がなかなか取れないということもあるが、何よりも、適切で実践的な教材が無いことであると考えられる。市販の教科書では、プロジェクトとして複数人数で取り組むという視点に欠けること、さらに、新規に開発課題を与えた場合には、初習者は参考とするものが無いために、間違った開発、あるいは途中で挫折ということになりやすいという問題がある。また、受講者側、すなわち大学学部生のレベルでは、IT技術者とはいかなるものかという職業意識がほぼ皆無であるという点が、教育実施上の最大の問題点である。意識が無いために、例えスキルレベル相当の教育訓練を行ったとしても、モチベーションがわかず、効果の無いものになってしまう。
そこで、本事業では、上に示した2点の問題、すなわち、初等プログラミングレベルから適切に取り組むことができ、ITスキル標準のエントリレベルへの到達を可能とする実践的なグループ別開発実践演習をベースとする教育訓練の開発と、学生のモチベーションを維持し、IT技術者に対する理解を持たせることを目的とする教材の開発を行った。
本教育訓練の特徴は、IT事例集とスキルの対応集によるモチベーションの向上と、eラーニングおよびJava実装演習によるJavaスキルの向上、そして、仮想の顧客からのシステム開発依頼を受けて、分析、設計、実装、テスト、納品までの一連のプロジェクト開発に取り組む実践演習による実践的なスキル修得にある。この教育訓練の実施により、受講者のスキルレベルをエントリレベルまで引き上げる一方、IT技術者に対する職業概念を持たせて、コース終了後も自己研鑽する目標を持たせることを狙った。

 

産学協同による教育訓練の意義

本事業では、“教材の開発”と“教育コースの実践”及び“教育効果の評価測定”を、産学それぞれが役割に徹した立場で遂行することにより、両者の特性を最大限に活かし、互いの立場で妥協することなく全体の開発を進めることができた。この結果、受講期間や受講者のスキルレベルに応じて、教育訓練の利用範囲やレベルの調整ができる教育訓練が実現できたと考えている。また、本教育訓練の受講生である学生にとって、ITスキル標準の意義をふまえた、実社会で役に立つ実践的な教育コースを受けることができ、その教育効果も適正に評価することができた。これらも、産学協同で本事業を実施したことの成果と言える。

 

教育訓練の概要

教育訓練の概要

本教育訓練では、初等プログラミングレベルの学生が、モチベーションを維持させながら、仮想的な顧客との対応、分析、設計、実装・テスト・納品までの一連のプロジェクト開発に取り組むことができる実践的教材、および、この演習計画を支援するシステム開発を行った。

①IT事例集とスキルの対応集

まず、ITサービスによる成功事例集と、これらを使うために必要となるスキルを明確化し、学生に対して達成目標を明確に示すことにより、能動的な学習意欲の植え付けを図った。

②個人学習演習

グループ演習の前段階として、サーバの構築演習、JSPに関する初等JavaプログラミングとしてのJava実装演習、eラーニングシステムを利用したJavaプログラミング個人演習、そしてオブジェクト指向モデリング演習を実施し、グループ開発に必要なプログラミング環境の理解と、個人スキルのレベルアップを図った。

③グループ別実践演習

仮想的な顧客との対応、分析、設計、実装・テスト・納品までの一連のプロジェクト開発に取り組むための実践的な教材に取り組ませた。特に、エントリレベルでは、ゼロからのプログラム開発は困難であるばかりでなく、間違った開発を行いやすい。これを避けるために、Webアプリケーションを予め作成しておき、それに対して、顧客が要求する機能を追加開発する形式をとった。これにより、既存開発アプリケーションの設計資料自体を参考書として利用でき、受講者が自主的に開発設計方法の学習を進めることが可能となった。

受講者

はこだて未来大学 学部3年生24名
※ 本教育訓練は、必修科目「システム情報科学実習I/II」において、学生が選択するプロジェクトのうちの一つ「高品質ビジネスソフトウェアのプロジェクト型開発手法の実践」として実施されたため、受講者は、上記プロジェクトを第一希望とした学生の中から選出した。
※ 上記学生は、2年次までにJava等を含む初等プログラミング演習を受講済。また、本教育訓練受講時に、データベース工学、システム管理方法論等を並行受講した。

教育効果の測定方法等

職業概念への意識、すなわちITスキル標準に対する興味と理解に関しては、アンケート調査を通じて評価した。個人学習演習によるスキル向上に関しては、eラーニングを使ったスキルチェックにより達成度を評価した。また、オブジェクト指向モデリング演習の効果に関しては、聞き取り調査の形式で、その理解度を調査した。スキル研鑽に関するモチベーションの有無は、インタビューを通して把握した。
グループ別実践演習を通して養われる開発スキル、対応能力の評価方法として、開発設計資料や実装プログラムの検証といった成果物のレビューとアンケート調査による評価に加え、課題プロジェクトの「要求変更・追加」による評価方法を確立した。すなわち、開発終盤において仮想顧客からの依頼内容の変更・追加を示し、この変更・追加に対して、どのような対応がとれるかによって評価する、シナリオ型の評価方法を採用した。

 

事業実施年度(平成15年度)における成果

現在、大学卒業時点では、ITスキル標準のいかなるエントリレベルにも達しないばかりか、IT技術者の役割とはいかなるものか、その職業観すら把握していない。この現状をふまえ、本事業では、高度IT人材の早期創出を目標とした教材開発に取り組んだ。すなわち、初等レベルのプログラミングスキルを持つ大学学部生が、ITスキル標準のエントリレベルへ到達することを目標として、学生のモチベーションを向上させ、IT技術者に対する理解を深めることが可能な教材である。
このような目的の下に、本事業では、「IT事例集とスキルの対応集」、「個人学習演習」、「グループ別実践演習」の3つの教育訓練が開発・実証された。
「IT事例集とスキルの対応集」は、外部講師を加えた座学により実施した。そのアンケート調査から、受講前にはITスキル標準をまったく知らなかった学生が、ITスキル標準に興味を示し、その職種の中から、自分がどのような職種に興味を持つか答えられるようになっており、IT技術者としての職業観を持つに至ったことが実証された。
「個人学習演習」に関しては、eラーニングを使ったスキルチェックから、個人スキルの向上が確認されるとともに、聞き取り調査から、この演習が今後のスキル研鑽へのモチベーション喚起に有効であったことが確認された。
「グループ別実践演習」では、1グループあたり総数500ページとなった設計書を含む成果物のレビュー結果、および課題プロジェクトの「要求変更・追加」への対応の仕方から、分析・要求定義、開発方式設計、アーキテクチャ設計、ソフトウェア開発、デザイン、テクニカル、品質マネジメント、業務適用設計、統合マネジメント、データベース構築に関わるスキルを身につけたことが確認された。また、アンケート調査から、開発プロジェクトの自主管理に関わるコミュニケーション、ネゴシエーションおよびリーダーシップに関わるスキルの育成にも成果が見られた。
以上の個々の開発教材と、それを用いた教育方法による成果達成から、グループ別実践演習をベースとする本教育訓練が、大学学部生の情報教育として、IT技術者としての職業意識をもたせるとともに、モチベーションを維持しながら初等プログラミングレベルから取り組むことのできる特徴を有しつつ、ITスキル標準のエントリレベルに到達させるための有効な教育方法となっていることが示された。

 

事業の継続状況

本事業における成果は、本学の自主財源によって、事業終了後も継続活用されている他、本学における実践的IT教育訓練拡充の基盤となっている。
実践型のプロジェクト開発演習については、事業実施時と同様、現在も3年生を対象とするプロジェクト学習の中で実施されている。また、企業から講師を招いて講義を行う「情報アーキテクチャ特論」も、学生のモチベーションを挙げるための授業として継続して実施している。本事業で構築したeラーニングシステムについても、「情報アーキテクチャ特論」の中で継続利用されている。
さらに、本事業が実施された平成15年度より、学内特別経費として「高度情報技術教育プログラム」が設置され、このプログラム予算(年500万円程度)によって、産学連携で教材作成に取り組んでいる。また、昨年度より、組込みシステム分野に関しても、地元企業SECおよびメディクの協力の下、産学連携によるプロジェクト学習テーマを開始した。
平成19年度は、今までの成果を発展させ、企業6社からの寄附や人材派遣等の協力を受け、学部4年生、大学院生を対象に寄附講座「ICTデザイン通論」「オープン技術特論」「組込みシステム特論」を新たに開講した。本講座は、エンタープライズ系と組込みシステム系の2コース制とし、各10名が受講した。前期は基礎的な技術力を身につけるため、2コース共通の「ICTデザイン通論」にてプロジェクト形式による開発演習を実施し、後期科目ではエンタープライズ系はマイクロソフト社イマジンカップ参加のための開発、組込み系は実用される機器の開発に取り組んだ。この講座について、今後4年間の継続を計画中である。
これらの事業が発展的に展開している理由として、大学が「IT人材育成を推進」の重視を表明していること、過去の人材育成事業を受講した卒業生が企業で高く評価されていることが挙げられる。一方、寄附講座は専門単位として認められておらず、時限付きの講座終了以降、大学の自主的な教育コースとして発展させるための教育デザインが今後の課題である。また、「実践的スキル」としてどこまで教育するかを明確にすること、評価システムの検討・確立も必要である。